こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。
今回のテーマはM&Aに関連して、役員退職金についてです。
M&Aにおいては、オーナー株主である代表取締役が退任することはよくみられます。
その際に、一般的にはいわゆる功績倍率法にて損金算入限度額を計算することがありますが、例えば退職時の報酬月額が著しく低いケースなど、功績倍率法で計算し難いケースもあります。その場合はどのような計算方法が考えられるでしょうか。
M&A関連~役員退職金①役員退職金の損金算入限度額①功績倍率法~
M&A関連~役員退職金②分割支給するとどうなる?分割支給と退職年金~
今回は1年当たり平均額法について書きたいと思います。
1.功績倍率法
M&A関連~役員退職金①役員退職金の損金算入限度額①功績倍率法~
上記の記事でも解説していますが、役員退職金の支給については、役員が業務に従事した期間、その退職の事情、対象会社と同種の事業を営み事業規模が類似する法人の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、不相当に高額でない限り、損金算入が認められています。
実務上は、法人税法施行令70条2項の考え方を受けて、いわゆる功績倍率法(役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法)に基づいて適正額(損金算入限度額)を計算していることが多いかと思われます 。
【功績倍率法】
①最終報酬月額*②勤続年数*③役位別係数
上記の計算では、「①最終報酬月額」を基に計算する関係上、例えば退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなど、功績倍率法で計算し難いケースもあります。
その場合はどのように計算することが合理的でしょうか。
2.1年当たり平均額法
退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなど、功績倍率法で計算し難いケースではどのように計算することが合理的でしょうか。
結論から申し上げますと、上記ケースにおいては、1年当たり平均額法の採用が考えられます。
1年当たり平均額法とは、「当該法人の比較の対象となるべき法人における退職した役員の勤続年数1年当たりの平均退職給与の額に、当該役員の勤続年数を乗じて相当な退職給与の額を算出する方法」です(昭和58年5月27日裁決参考)。
【1年当たり平均額法の計算式】
①類似法人の退職給与の1年当たり平均額*②勤続年数
また、1年当たり平均額法を採用する根拠として、昭和61年9月1日裁決が参考になります。
【昭和61年9月1日裁決抜粋】
最終報酬月額が役員の在職期間を通じての会社に対する貢献を適正に反映したものでないなどの特段の事情があり低額であるときは、最終報酬月額を基礎とする功績倍率法により適正退職給与の額を算定する方法は妥当でなく、最終報酬月額を基礎としない1年当たり平均額法により算定する方法がより合理的である。
3.1年当たり平均額法の問題点
退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなどに利用可能な1年当たり平均額法ですが、大きな問題点があります。
それは、①類似法人の退職給与の1年当たり平均額が、納税者側から把握することが非常に困難という点です。
類似法人の退職給与のデータは、公表されているわけではありません。
従って、書籍や何がしかの公開情報のデータを納税者が用意する必要があります。
納税者が用意したデータは、データの正確性・網羅性等の面において、税務署・国税庁が保有しているデータに劣るケースが多いのではないでしょうか。
事実、現実的には、裁判などにおいても税務署側のデータが有利となっているようです。
4.退職時の最終報酬月額が著しく低いだけでなく、役員報酬が0円(無報酬)の場合は?
では、役員報酬を支給していない0円(無報酬)のケースはどうなるでしょうか。
無報酬のケースであっても、実態として日常業務を行っており、功績が十分に認められるような職務に従事していた事実があれば、1年当たり平均額法が適用できるものと考えられます。
ただし、①在職期間を通じて無報酬、かつ、②名目上の役員、であるようなケースは支給が認められない可能性も高くなるため、慎重な判断が必要なものと考えられます。
5.まとめ
類似法人の退職給与のデータが必要であることを鑑みると、1年当たり平均額法を採用するハードルは高いようにも思えます。
ただ、一定のケースにおいては、1年当たり平均額法を採用することも考えられ、退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなどに検討の余地はあるのではないでしょうか。
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