M&A関連~役員退職金⑤退職給与の打切支給~

こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。

今回のテーマもM&Aに関連して、退職金についてです。
M&Aにおいては、オーナー株主である代表取締役の退任の他、使用人(=従業員)であった者が役員に就任するというケースもあります。
使用人が役員となった場合、退職金の損金算入の扱いはどのようになるでしょうか。
M&A関連~役員退職金①役員退職金の損金算入限度額①功績倍率法~
M&A関連~役員退職金②分割支給するとどうなる?分割支給と退職年金~
M&A関連~役員退職金③最終報酬月額が低額・無報酬のケース。1年当たり平均額法~
M&A関連~役員退職金④分掌変更が行われた場合の損金算入可否~

今回は、いわゆる「退職給与の打切支給」についてです。

1.使用人が役員になった場合の退職給与(退職給与の打切支給)

使用人が役員になった場合、退職給与規程に基づき使用人であった期間に係る退職給与については、損金算入が認められています。ただし、未払計上が認められていない点には留意する必要があります。

具体的には、法人税法基本通達9-2-36で定められており、以下の通りとなります。

【法人税法基本通達9-2-36(抜粋。ただし注書につき9-2-35参照)】
9-2-36 使用人がその法人の役員となった場合において、当該法人がその定める退職給与規程に基づき当該役員に対してその役員となった時に使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額を支給したときは、その支給した金額は、退職給与としてその支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入する。

(注) この場合の打切支給には、法人が退職給与を打切支給したこととしてこれを未払金等に計上した場合は含まれない。

なお、法人税法基本通達9-2-36及び法人税法基本通達9-2-35の注書きによると、未払金計上した場合は認めておらず、現実に金銭の支給が行われることが要件とされています。
※法人税法基本通達9-2-36では、退職の事実が無いものについて、例外的に認めているものであるため

2.退職給与の打切支給が認められず、損金不算入となる場合

また、以下の場合は、法人税法基本通達9-2-36の取り扱いが認められず、役員賞与として損金不算入になるものと考えられます。

(1)役員に就任した後、相当期間経過後に支給される場合
使用人としての地位がなくなったことにより、役員に就任したときに使用人としての退職給与を支給する場合に認めるものであるためです。

(2)退職給与規程から、使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額として相当でない場合
あくまで、使用人であった期間に係る退職給与として計算される金額として相当である必要があります。
※この場合、法人税基本通達9-2-27の規定「使用人が役員となった直後に支給される賞与等」に該当しなければ、役員賞与として損金不算入となります

(3)現実に金銭の支給が行われず未払金計上した場合
前述した通り、法人税法基本通達9-2-36及び法人税法基本通達9-2-35の注書きによると、未払金計上した場合は認めておらず、現実に金銭の支給が行われることが要件とされています。

【法人税法基本通達9-2-27】
9-2-27 使用人であった者が役員となった場合又は使用人兼務役員であった者が令第71条第1項各号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる役員となった場合において、その直後にその者に対して支給した賞与の額のうちその使用人又は使用人兼務役員であった期間に係る賞与の額として相当であると認められる部分の金額は、使用人又は使用人兼務役員に対して支給した賞与の額として認める。

3.まとめ

退職給与の打切支給は一定の要件を満たせば、損金算入が可能となっています。
ただし、未払金計上は認められていない点に留意する必要があります。

弊社はM&Aに関する諸論点に関するご相談にも乗っていますので、お気軽にお問い合わせよりご相談ください。

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※本コラムは、掲載日時点の情報に基づく個人的な見解であり、G&Sソリューションズグループの公式見解ではないことをお断り申し上げます。
※本コラムに記載されている情報は、あくまで一般的な情報であり、特定の個人ないし法人を取り巻く環境に適合した情報ではありません。本コラムに記載されている情報のみを根拠とせず、専門家とご相談した結果を基にご判断頂けますようお願い申し上げます。

M&A関連~役員退職金④分掌変更が行われた場合の損金算入可否~

こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。

今回のテーマはM&Aに関連して、役員退職金についてです。
M&Aにおいては、オーナー株主である代表取締役の退任の他、引継ぎ等のため分掌変更が行われることがあります。
分掌変更等が行われた場合、役員退職金の損金算入は可能でしょうか。
M&A関連~役員退職金①役員退職金の損金算入限度額①功績倍率法~
M&A関連~役員退職金②分割支給するとどうなる?分割支給と退職年金~
M&A関連~役員退職金③最終報酬月額が低額・無報酬のケース。1年当たり平均額法~

今回は分掌変更等が行われ場合の役員退職金の取り扱いについて書きたいと思います。

1.役員の分掌変更等の場合の退職給与

役員退職金は退職の事実に基づいて損金算入が認められますが、分掌変更等が行われた場合においても、損金算入が認められています。

法人税法基本通達9-2-32によると、分掌変更等により実質的に退職したと同等の事実にあると認められるケースとして、以下のケースが例示列挙されています。
ただし、いずれのケースも実態判断を伴っており、形式用件のみ満たすケースは損金算入が認められない点に留意する必要があります。
なお、(2)取締役が監査役になるケースは、同族会社の特定株主等についても適用除外となる点に留意する必要があります。

(1)常勤役員が非常勤役員になったこと
※常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く

(2)取締役が監査役になったこと
※監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く

(3)分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(概ね50%以上の減少)したこと
※その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く

【法人税法基本通達9-2-32(抜粋)】
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)

(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。

(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。

(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

2.分掌変更等の役員退職金を未払計上した場合は損金算入が認められるか

法人税法基本通達9-2-32では、分掌変更等の場合、原則として未払計上したものの損金算入を認めていません。

ただし、「原則として」とありますので、やむを得ないケースなど一定の場合は容認されるものと考えられます。

3.まとめ

分掌変更等の役員退職金は一定の要件を満たせば、損金算入が可能となっています。
ただし、形式用件のみ整えた場合は否認される可能性もある点に留意する必要があります。

弊社はM&Aに関する諸論点に関するご相談にも乗っていますので、お気軽にお問い合わせよりご相談ください。

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M&A関連~役員退職金③最終報酬月額が低額・0円(無報酬)のケース。1年当たり平均額法~

こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。

今回のテーマはM&Aに関連して、役員退職金についてです。
M&Aにおいては、オーナー株主である代表取締役が退任することはよくみられます。
その際に、一般的にはいわゆる功績倍率法にて損金算入限度額を計算することがありますが、例えば退職時の報酬月額が著しく低いケースなど、功績倍率法で計算し難いケースもあります。その場合はどのような計算方法が考えられるでしょうか。
M&A関連~役員退職金①役員退職金の損金算入限度額①功績倍率法~
M&A関連~役員退職金②分割支給するとどうなる?分割支給と退職年金~

今回は1年当たり平均額法について書きたいと思います。

1.功績倍率法

M&A関連~役員退職金①役員退職金の損金算入限度額①功績倍率法~
上記の記事でも解説していますが、役員
退職金の支給については、役員が業務に従事した期間、その退職の事情、対象会社と同種の事業を営み事業規模が類似する法人の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、不相当に高額でない限り、損金算入が認められています。

実務上は、法人税法施行令70条2項の考え方を受けて、いわゆる功績倍率法(役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法)に基づいて適正額(損金算入限度額)を計算していることが多いかと思われます 。

【功績倍率法】
①最終報酬月額*②勤続年数*③役位別係数

上記の計算では、「①最終報酬月額」を基に計算する関係上、例えば退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなど、功績倍率法で計算し難いケースもあります。
その場合はどのように計算することが合理的でしょうか。

2.1年当たり平均額法

退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなど、功績倍率法で計算し難いケースではどのように計算することが合理的でしょうか。

結論から申し上げますと、上記ケースにおいては、1年当たり平均額法の採用が考えられます。

1年当たり平均額法とは、「当該法人の比較の対象となるべき法人における退職した役員の勤続年数1年当たりの平均退職給与の額に、当該役員の勤続年数を乗じて相当な退職給与の額を算出する方法」です(昭和58年5月27日裁決参考)。

【1年当たり平均額法の計算式】
①類似法人の退職給与の1年当たり平均額*②勤続年数

また、1年当たり平均額法を採用する根拠として、昭和61年9月1日裁決が参考になります。

【昭和61年9月1日裁決抜粋】
最終報酬月額が役員の在職期間を通じての会社に対する貢献を適正に反映したものでないなどの特段の事情があり低額であるときは、最終報酬月額を基礎とする功績倍率法により適正退職給与の額を算定する方法は妥当でなく、最終報酬月額を基礎としない1年当たり平均額法により算定する方法がより合理的である。

3.1年当たり平均額法の問題点

退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなどに利用可能な1年当たり平均額法ですが、大きな問題点があります。

それは、①類似法人の退職給与の1年当たり平均額が、納税者側から把握することが非常に困難という点です。

類似法人の退職給与のデータは、公表されているわけではありません。
従って、書籍や何がしかの公開情報のデータを納税者が用意する必要があります。

納税者が用意したデータは、データの正確性・網羅性等の面において、税務署・国税庁が保有しているデータに劣るケースが多いのではないでしょうか。
事実、現実的には、裁判などにおいても税務署側のデータが有利となっているようです。

4.退職時の最終報酬月額が著しく低いだけでなく、役員報酬が0円(無報酬)の場合は?

では、役員報酬を支給していない0円(無報酬)のケースはどうなるでしょうか。
無報酬のケースであっても、実態として日常業務を行っており、功績が十分に認められるような職務に従事していた事実があれば、1年当たり平均額法が適用できるものと考えられます。

ただし、①在職期間を通じて無報酬、かつ、②名目上の役員、であるようなケースは支給が認められない可能性も高くなるため、慎重な判断が必要なものと考えられます。

5.まとめ

類似法人の退職給与のデータが必要であることを鑑みると、1年当たり平均額法を採用するハードルは高いようにも思えます。

ただ、一定のケースにおいては、1年当たり平均額法を採用することも考えられ、退職時の最終報酬月額が著しく低いケースなどに検討の余地はあるのではないでしょうか。

弊社はM&Aに関する諸論点に関するご相談にも乗っていますので、お気軽にお問い合わせよりご相談ください。

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