M&A関連~株式譲渡時におけるM&A関連費用の会計処理と税務上の取り扱い~

公認会計士・税理士の山田勝也です。

M&Aを行おうとするクライアントとお話をしていますと、M&Aに関連する様々な費用(株式の取得費用や、調査費用、仲介手数料等)について会計上・税務上どのような取り扱いがなされるかについて十分に理解をしないままM&Aの検討を進めている事例に直面することがあります。M&Aの実行の直前や事後的に会計処理や税務処理を知り当初の理解と異なることを知り、驚かれる経営者の方もいらっしゃいます。今回のコラムでは、M&Aを行ったときに発生する各種費用が会計上・税務上どのように取り扱われるかを見ていきたいと思います。

Ⅰ.M&Aに関連する費用

M&Aに関連する費用にはどのようなものがあるでしょうか。
①M&Aの対価(取得対価)
まずは、M&Aを実行するために相手に支払う対価があります。M&Aを株式譲渡の手法で行う場合には、株式の対価、合併で行う場合には、合併に伴い交付する金銭等が該当します。

②付随費用(取得関連費用)
M&Aの実行に伴って、発生する費用には、FA(ファイナンシャルアドバイザー)やM&A仲介者に対する報酬、DD(デューデリジェンス)等のための専門家報酬等が該当します。

これらの費用については、会計・税務上の取り扱いが異なるため注意が必要になります。
以下、株式を取得し子会社化したときの取り扱いについて「連結財務諸表」「個別財務諸表」「税務」に分けて上記の①②の処理方法について解説していきます。

Ⅱ.連結財務諸表上の取り扱い

①M&Aの対価(取得対価)
株式の取得対価は連結財務諸表の作成過程において、投資と資本の相殺が行われるため、子会社の時価評価後の純資産と相殺消去されます。そのため取得対価は、連結財務諸表上直接的に表示されることはありません。ただし、取得価額が子会社の時価純資産額を超過する部分については、のれんや無形資産として連結貸借対照表に計上されます。

②付随費用(取得関連費用)
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」では、以下のように定められており、付随費用はその発生した事業年度の費用として処理されることとなります。なお、取得関連費用の内容及び金額は連結財務諸表の注記事項として開示する必要があることにも留意が必要です。

(企業結合に関する会計基準)
取得関連費用の会計処理

26. 取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、発生した事業年度の費用として処理する。
取得とされた企業結合の注記事項
49. 企業結合年度において、取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合には、次の事項を注記する。なお、個々の企業結合については重要性は乏しいが、企業結合年度における複数の企業結合全体について重要性がある場合には、(1)、(3)及び(4)について企業結合全体で注記する。また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる。
~中略~
(3) 取得原価の算定等に関する事項
~中略~
④ 主要な取得関連費用の内容及び金額

Ⅲ.個別財務諸表上の取り扱い

①M&Aの対価(取得対価)
子会社株式の取得にともなう取得対価は取得原価をもって子会社株式として貸借対照表に計上されます。

②付随費用(取得関連費用)
「金融商品会計に関する実務指針」第56項においては付随費用については取得価額に含めて処理ることとされています。費用の内容及び金額は連結財務諸表の注記事項として開示する必要があることにも留意が必要です。

(金融商品に関する実務指針)
付随費用の取り扱い
56. 金融資産(デリバティブを除く。)の取得時における付随費用(支払手数料等)は、取得した金融資産の取得価額に含める。ただし、経常的に発生する費用で、個々の金融資産との対応関係が明確でない付随費用は、取得価額に含めないことができる。~略~
261.デリバティブを除く金融資産の取得時における付随費用を取得の取得した金融資産の取得価額に含めることとしたのは、金融資産 以外の資産の場合、原則としてその付随費用を資産の取得価額に計上しており、金融資産について もその処理方法と同様にすることが適当であると考えたからである。~略~

Ⅳ.税務上の取り扱い

①M&Aの対価(取得対価)
購入した有価証券について、その購入の対価は有価証券として計上し、損金に算入されません

②付随費用(取得関連費用)
法人税法施行令では「購入手数料その他購入のために要した費用」については取得価額に含まれることとされています。

(法人税法施行令)
第百十九条 内国法人が有価証券の取得をした場合には、その取得価額は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 購入した有価証券(法第六十一条の四第三項(有価証券の空売り等に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)又は第六十一条の五第三項(デリバティブ取引に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)の規定の適用があるものを除く。) その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

税務処理を行うにあたって、「購入手数料その他購入のために要した費用」の範囲が問題となります。
特に、財務調査等(デューデリジェンス)に係った専門家報酬等の費用を子会社株式の取得価額に含めるか、損金とするかについては、その調査を行った時点においては子会社株式の取得が確定しておらず、その後の交渉ではM&Aが不成立となることもあるためその取扱いについて議論となります。この点、過去の裁決事例を見ると、法令の解釈として
「購入した有価証券の取得価額は、法人税法施行令第119条第1項第1号がその購入の代価にその有価証券の購入のために要した費用の額を加算した金額とする旨規定しているところ、どの有価証券を購入するか特定されていない時点において、いずれの有価証券を購入すべきであるか決定するために行う調査等に係る支出は、この有価証券の購入のために要した費用には当たらないものの、特定の有価証券を購入する意図の下で当該有価証券の購入に関連して支出される費用は、有価証券の購入のために要した費用として当該有価証券の取得価額に当たるものと解される。」
とされています。
すなわち、以下のような整理がされています。
特定の有価証券を取得することを決定した時点以前の調査費用:損金処理
特定の有価証券を取得することを決定した時点以降の調査費用:取得価額
とはいえ、M&A実務において、取得の意思決定をしたタイミングや、調査の目的やその時点での当該調査対象会社株式の取得に対する姿勢等は様々なケースが想定されます。
個々の事例に照らして、どのような税務処理を行うかは慎重に検討し、株式取得の意思決定の経緯や調査の目的や業務提供時期、支出目的等を事前に整理し、資料を残すよう対応することが望ましいと考えられます。

(平成22年2月8日裁決)
○ 請求人は、A社の財務調査(以下「本件財務調査」という。)は、監査法人から、連結財務諸表を監査するに当たり財務調査が必要との指導を受けたため、やむを得ず監査目的で実施したこと、A社の財務諸表は、上場企業と同程度に信頼性の高い決算書であったため、A社の株式(以下「本件株式」という。)を取得する目的での財務調査は必要なしと判断していたこと、純資産○○○○千円(平成19年3月31日現在)の価値があるA社を○○○○千円程度で譲り受けることを基本合意していたのであるから、本件株式を取得する目的で改めて財務調査を実施する必要はないと判断していたのであり、本件財務調査の費用は、本件株式の取得価額に算入されない旨主張する。しかしながら、請求人は、平成19年7月18日に開催した臨時取締役会において、本件株式を取得する旨決議しており、このことからすれば、請求人は本件株式を取得することを決意していたと認められ、本件財務調査の目的が本件株式の買収についての意思決定の参考とするために行われたものと認められることからすれば、本件財務調査に要した費用は、特定の有価証券を購入することを決定した後に当該有価証券の購入に関連して支出される費用に該当することになるから、有価証券の購入のために要した費用として、本件株式の取得価額に算入されることになる。(平22. 2. 8 福裁(法)平21-12)

(平成22年2月3日裁決)
○ 請請求人は、B監査法人あるいはC法律事務所に依頼した調査がA社の株式の購入の意思決定後に行った調査でないことをもって、本件財務調査費等が本件株式の購入のために要した費用には当たらない旨主張する。しかしながら、請求人が、平成18年10月6日に、A社の株式の引受けに対する第二次入札参加の意思表示を行ったことからすれば、請求人はA社の株式を取得することを決意していたと認められる。そして、請求人は、A社の財務調査をB監査法人に、また、法務調査監査をC法律事務所に依頼し、これらの調査が終了したとして、調査に要した費用を支出しているところ、これらの支出は、A社の株式という特定の有価証券を購入する意図の下で当該有価証券の購入に関連して支出された費用ということができる。そうすると、本件財務調査費等は、本件株式を購入する意図の下で本件株式の購入に関連して支出される費用として、本件株式の購入のために要した費用に該当することとなるところ、請求人がB監査法人あるいはC法律事務所に調査を依頼した時点において、請求人は本件株式を取得することを決意していたと認められることから、請求人の主張には理由がない。(平22. 2. 3 福裁(法・諸)平21-11)

また、取得に当たる調査費用以外にも、M&Aの実行に当たっては、契約書の作成費用やレビュー費用、買収資金の調達に当たって発生した費用等様々な費用が生じます。これらについても、税法の趣旨に照らして取得価額に含めるかどうか慎重に検討が必要となってきます。
なお、株式交換の事例ではありますが、平成26年4月4日付の裁決では「取得しようとする株式の候補が複数ある時点において、いずれの株式を取得すべきかを決定するために行う調査等に係る費用は、通常、当該取得を目的とする株式が特定されていないことから、実際に取得した株式の取得との関連性は希薄であるといえるものの、少なくとも、特定の法人の株式を取得する前提で行う調査等に係る費用は、その特定の法人の株式の取得を断念した場合を除き、当該株式の取得を目的としてその取得に関連して支出する費用というべきである。」との見解が示されているため、この解釈も留意して判断することが重要です。

個々の事案の状況によって変わってくるものであはありますが、以下のような区分を参考に判断されるとよいかとおもいます。

M&A先探索に係る費用・着手金等 特定株式の取得のための支出でははないため損金算入
株式取得をする意思決定前のプレDD費用 特定株式の取得のための支出でははないため損金算入
基本合意の締結に関連した報酬、仲介手数料等 取得価額に算入
DDのための専門家報酬・費用 取得価額に算入
アドバイザリー報酬(成功報酬) 取得価額に算入
買収資金調達のための報酬・費用等 損金算入

【参考】合併時のデューデリジェンス費用の税務上の取り扱い

上記では、株式取得によるM&A実行時の取り扱いを解説してきましたが、M&Aが合併により行われるときに、支出されるデューデリジェンス費用については、国税庁の質疑応答事例において一時の損金として処理することとなると示されており、M&Aの態様により、同じデューデリジェンス費用でも税務上の取り扱いが異なってくることにも留意が必要です。

合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い

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