会社設立~資本金と会社類型~ 資本金はいくらにすべきか

はじめまして。公認会計士の国近宜裕です。

初回のメンバーコラムということもありますので、会社設立にあたってどのような点に注意すべきかということについて、資本金と会社類型という観点から書きたいと思います。

Ⅰ.資本金

会社を設立する際、資本金はいくらにすればよいでしょうか。
一般論として、1円でも設立はできるものの、信用力の観点からは一定程度の金額を確保した方が望ましいと考えます。

具体的な金額は、各法人の設立目的・会社方針・資金状況等々あるため一概には記載できませんが、①社会的な信用力、②今後の資金計画、③資本政策等々を総合的に勘案して資本金を設定することになるかと思われます。

また、資本金金額によって税務上・各法令上の取り扱いが異なります。
許認可などが絡む場合もあり、網羅的な記載はできませんが、主なものは以下の通りです。

1.資本金1,000万円以上/超(①消費税の課税事業者・②法人住民税)

資本金が1,000万円未満であれば消費税の免税事業者となります。
ただし、資本金が1,000万円以上となると、設立直後から消費税の納税義務が課されるため、一般的には資本金は1,000万円未満にすると有利となります。

ただし、詳細は省略しますが、消費税の納税義務が課されると消費税が還付となることがあります。
従って、一概に消費税の納税義務を免除されることが会社にとってプラスになるとは限らないのですが、会社の置かれた状況によるため、消費税の課税事業者となる影響を考慮するとよいでしょう。

また、地方税である法人住民税は、従業員数50人以下、かつ、資本金1,000万円以下では、最低の7万円(東京都23区の場合。各自治体によって金額は異なります)となります。
ただし、従業員数50人以下、かつ、資本金1,000万円超では、18万円と増加します。

2.資本金2,144万円以上(登録免許税)

登録免許税は、株式会社を前提とすると最低15万円ですが、資本金の額 7/1,000 で計算されます。
従って、資本金金額が大きくなると(具体的には2,144万円)登録免許税が増加する点に留意する必要があります。

3.資本金1億円超(交際費、特別償却、軽減税率、外形標準課税等々)

税法では、資本金1億円未満など一定の要件に該当する会社を中小企業者として取り扱っており、税制上の様々な優遇措置を受けることが可能です。

従って、税制上のメリットを享受したい場合、資本金は1億円以下とした方がよいでしょう。
資本金が1億円以下となっている場合、例えば、以下の点でメリットがあります。

A.交際費等の損金不算入
B.中小企業者等の機械等の特別償却、法人税の特別控除
C.貸倒引当金の法定繰入率による繰入れ
D.中小企業基盤強化税制
E.法人税の軽減税率の適用
F.事業税の外形標準課税の非適用
(また、外形標準課税の資本割は資本金の額により増加します)

4.資本金5億円以上(会社法上の大会社)

資本金が5億円以上となると、会社法上の大会社に該当(※)するため、会計監査人(いわゆる公認会計士または監査法人)の設置が必須となり、公認会計士の行う会社法監査を受けなければなりません。

従って、資本金5億円以上にもかかわらず、会計監査人を設置しない場合、会社法違反となります。
一方で、現実問題として、資本金5億円以上であるにもかかわらず、会計監査人を設置していない会社は散見されます。その場合、例えば、銀行融資上マイナスに判断されることも考えられます。
(過去2011年8月29日付で日本公認会計士協会から全銀協に通達がでており、金融機関が与信先の会計監査人の設置状況を確認するよう要求されています)

そのため、資本金5億円以上のメリットとしては、(資本金5億円が何かの区切りではありませんが)信用力が増すというメリットがありますが、会社法上の大会社に該当するため会計監査人を設置しなければならないというデメリットがあります。

(資本金5億円以上となると、そもそも気軽に設立できる規模ではないですが。。)

【(※)会社法第二条6号】
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
六 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が5億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること。

5.その他

その他、中小企業基本法では、業種ごとに資本金(5,000万円、1億円)・従業員数により中小企業者を定義しています。
中小企業者に該当すれば中小企業庁が中小企業振興のために用意している様々な恩恵を受けることができます。

また、下請代金支払遅延等防止法では、資本金1,000万円以上、資本金3億円超で取り扱いが異なるため、この点意識してもよいでしょう。

さらに、事業によっては許認可を取得する必要があり、許認可によっては一定の資本金を確保すること等が求められていることもあります。

資本金の結論

最初に述べましたが、資本金は高ければ高いほど社会的な信用力は高いです。
しかしながら、税務上・各法令上の恩恵を受けるためには資本金は一定の金額に抑えた方がよいす。

Ⅱ.会社類型-①株式会社・②持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)

次に、どの種類の会社を設立するかという論点があります。
現行の会社法の改正以降、会社類型は大きく①株式会社と②持分会社の2類型に分けられます。
持分会社には合名会社・合資会社・合同会社があり、株式会社・合名会社・合資会社・合同会社の4類型になっています。

具体的な会社類型による違いは以下の通りです。
合同会社と株式会社は、社員ないしは株主が有限責任という点で共通しており、どちらかが選択肢として挙げられると思いますが、基本的には株式会社を選択することになるかと思います。

①株式会社

株式会社とは、出資者の責任が株式の引受価額を限度とする間接有限責任となる会社類型です。
また、所有(株主)と経営(業務執行者)が分離しており、所有者である株主は業務執行を行わず、業務執行は経営専門家である取締役等が行います。
(ただし、結果として、株主=業務執行者となることはあります。というより上場企業はともかく中小企業ですと株主=業務執行者のケースが多いように見受けられます)

設立には、定款認証費用9万円と登録免許税(最低)15万円(従業員数・資本金の額によっては15万円超)がかかり、諸々の費用を合計すると30万円程度見込んだ方がよいです。

司法書士先生に依頼した場合も、概ね上記の金額で設立できるかと思われます。
(業種や難易度により異なりますので、司法書士先生にお問合せください)

②持分会社

先ほど記載した通り、持分会社には合名会社・合資会社・合同会社があり、株式会社・合名会社・合資会社・合同会社の4類型になっています。

持分会社においては、出資者の責任は後述する会社類型により直接無限責任~間接有限責任と異なります。
また、株式は発行されず、所有と経営の分離が図られないため、出資者である社員(持分会社の出資者は、株主ではなく社員と呼ばれます。出資については株式ではなく持分と呼ばれます)が業務執行を行います。

詳細は省略しますが、持分会社は、定款認証が不要のため、株式会社で必要とされる定款認証費用9万円は不要となります。
いずれの会社も設立には、登録免許税(最低)6万円がかかります。

以下、合名会社・合資会社・合同会社について記載します。

合名会社は、出資者の責任が直接無限責任である会社です。

合資会社は、出資者の責任が直接無限責任・直接有限責任である会社です。
(合資会社は、無限責任社員・有限責任社員の両社が存在する会社となります)

合同会社は、出資者の責任が間接有限責任である会社です。
(株式会社と合同会社はどちらも間接有限責任で、一般的に出資者にとって使い勝手がよいと考えられます)

設立コスト(持分会社が有利)

株式会社では、定款認証費用9万円+登録免許税(最低)15万円=24万円が、
持分会社では、定款認証費用不要+登録免許税(最低)6万円=6万円となります。

従って、設立コストの面においては持分会社が有利です。

知名度(株式会社の方が知名度が高い)

一般的に、知名度では株式会社の方が知名度が高いと思われます。
一般的に、持分会社よりも株式会社の方が多く、一般的なためです。。

対外的な責任関係(株式会社・合同会社が有利(取引先からみると逆))

株式会社では、出資者の責任は株式の引受価額を限度とする間接有限責任です。
また、合同会社においても、出資者の責任は出資した持分の額を限度とする間接有限責任です。
従って、出資者にとっては、会社が倒産し債務が返済できなくなった場合等において、責任が出資の額に限定される間接有限責任の株式会社及び合同会社が有利となります。

合名会社及び合資会社は、(合資会社の場合は無限責任社員については)直接無限責任であるため、対外的な責任は株式会社及び合同会社と比較して相対的に重いといえます。

会社類型の結論

上記、比較検討すると株式会社または合同会社に優位があると考えられます。

設立コストを鑑みると合同会社も検討の余地はあるといえます。
(特に個人会社等では合同会社を選択される方もいらっしゃいます)

しかし、信用力やマイナーであることの不便さ・・等々鑑みますと、株式会社を選択する方が多いように見受けられます。

特段の事情が無い限り、通常の事業活動を行うにあたっては株式会社を採用するケースが多いといえるでしょう。

本コラムの結論

資本金をいくらにすべか、会社類型を何にするかという点は、各法人の設立目的・会社方針・資金状況等々あるため一概には言えませんが、①社会的な信用力、②今後の資金計画、③資本政策等々を総合的に勘案して、必要に応じて専門家との相談の上、決定することをおすすめします。

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