消費税⑦~期末発生する差異の理由と繰延消費税額等(控除対象外消費税額等)~

こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。

今回の記事は消費税の処理についてです。

期中は、通常は会計システムを利用すると、仕訳起票の際に1つ1つ税区分判定をすることで、消費税が自動計算されます。
税抜経理を前提とすると、仮払消費税と仮受消費税が仕訳を起票する都度計算され、期末には残高が積み上がることになります。

期末に消費税申告をする際、改めて消費税額を計算することになりますが、必ずしも①仮払消費税・仮受消費税の差額と、②消費税申告で計算する消費税が一致するとは限りません
※むしろ完全には一致しないケースがほとんどです。期末に仮払消費税と仮受消費税の相殺ができず、消費税が合わない・・・というご相談を良く頂きます

何故、差異が発生するのでしょうか。

今回は税抜経理を採用している法人を前提として、主な差異の発生理由と発生した差異の処理方法(繰延消費税額等)について書きたいと思います。

1.消費税の主な差異の発生理由

会計システムと消費税申告計算が自動連動しているか、仮払消費税・仮受消費税の集計は自動集計か手作業による集計か、など個々の状況に応じて差異が発生する理由は変わってくるかと思いますが、消費税の主な差異の発生理由について以下羅列します。

(1)端数処理による差異

消費税の申告計算では、端数処理が規定されています。
※例えば、課税標準は1,000円未満切り捨でですし、税額は1円未満切り捨てとなります

従って、会計システムと消費税申告計算との間には基本的に少額の差異が発生します。
会社にもよりますが、数円~数百円程度の差異であれば、上記の端数処理による原因であることがほとんどです。
※租税公課又は雑損失に計上することになります

(2)課税売上割合による差異

まず、前提として、会計システムで計算される仮払消費税は税区分に応じて、自動計算されます。

例えば、税区分が課税仕入10%の場合以下の通りです。
【仕訳】
仕入   1,000/買掛金 1,100
仮払消費税 100

一般的に、会計システム上は上記の自動計算において、課税売上割合などは考慮されません。

従って、①課税売上高5億円超、もしくは、②課税売上割合が95%未満の会社においては、課税仕入が全額控除できず、この場合には、控除対象外消費税額等(仕入税額控除ができない仮払消費税等の額)が生じることになります。

従って、会計システムと消費税申告計算において差異が発生することがあります。

(3)簡易課税を選択したことによる差異

簡易課税を選択した場合、本則課税による消費税計算との間に消費税額に差異が発生します。

(4)会計システムと消費税申告計算の不整合による差異

会計システムに入力した消費税金額と、消費税申告計算で利用している消費税金額に不整合がある場合、差異が発生することになります。

例えば、2019年に消費税が8%から10%に増税されましたが、利用している税率が整合していないと、消費税金額にも差異が発生することになります。

会計システムで利用している数値が正しい数値かどうか確認し、消費税申告計算と整合させる必要があります。

(5)中間申告・中間納付の処理による差異

消費税を中間納付している場合、仮払消費税として処理する方法の他、仮払金として処理する方法など会社によって様々です。

会計システム上の仕訳と消費税申告上の処理が異なる場合、差異が発生する場合があります。

また、(4)と関連しますが、中間納付の金額についても整合しているか確認する必要があります。

(6)仮払消費税・仮受消費税を単独仕訳として起票した場合の差異

仮払消費税・仮受消費税を税区分の自動計算ではなく、単独仕訳として起票されることがあります。

会計システム・申告ソフトによるかと思いますが、集計漏れ等により消費税計算上、差異が発生する可能性があります。

(7)その他の差異

その他、特定収入割合による差異、会計システム上のフラグミスによる差異、仮払消費税・仮受消費税を手集計する際の集計ミスによる差異などが考えられます。

2.控除対象外消費税額等の処理~課税売上割合80%未満の場合は繰延消費税額等に注意~

では、消費税差異が発生した場合、どのように対応すればよいでしょうか。
まずは消費税差異の発生要因を把握し、計算誤り等により発生したものでないことを明らかにし、適宜修正する必要があります。

その上で、1(1)の端数処理による差異の他、①課税売上高5億円超、もしくは、②課税売上割合が95%未満であること等により、控除対象外消費税額等(仕入税額控除ができない仮払消費税等の額)が発生することがあります。

控除対象外消費税額等の処理については、課税売上割合によって異なりますが、表にまとめると以下の通りとなります。
※詳細は(1)以下をご覧ください。

課税売上割合 何に係るものか 法人税法上の扱い 備考
80%以上 全て 損金算入 ※交際費等の損金不算入額に留意
80%未満 下記以外 損金算入 ※交際費等の損金不算入額に留意
一の資産が20万円以上の固定資産・繰延資産 繰延消費税額等として資産計上

(参考)国税庁HP
No.6921 控除できなかった消費税額等(控除対象外消費税額等)の処理

(1)課税売上割合が80%以上の場合

課税売上割合が80%以上の場合は、生じた消費税差異について、全額損金算入可能です。
※ただし、交際費等に係る控除対象外消費税額等に相当する金額は交際費等の額として、交際費等の損金不算入額を計算する点に留意してください。

(2)課税売上割合が80%未満の場合

一方で、課税売上割合が80%未満の場合は、発生要因によって扱いが異なるため、扱いに留意する必要があります。

①経費に係るもの

控除対象外消費税額等の全額をその事業年度の損金に算入します
※ただし、交際費等に係る控除対象外消費税額等に相当する金額は交際費等の額として、交際費等の損金不算入額を計算する点に留意してください。

②棚卸資産に係るもの

控除対象外消費税額等の全額をその事業年度の損金に算入します

③一の資産が20万円未満の固定資産・繰延資産に係るもの

控除対象外消費税額等の全額をその事業年度の損金に算入します

④一の資産が20万円以上の固定資産・繰延資産に係るもの

控除対象外消費税額等は繰延消費税額等として資産計上し、次に掲げる方法によって損金に算入します。

【繰延消費税額等の発生した事業年度】
繰延消費税額等 * その事業年度の月数/60 * 1/2

【その後の事業年度】
繰延消費税額等 * その事業年度の月数/60

(3)(参考)簡易課税を採用している場合

簡易課税、かつ、税抜経理を採用している場合に、以下の要件に該当すると繰延消費税額等の問題が発生しますが、詳細は割愛します。

「仮払消費税等の金額>みなし仕入控除税額等」に該当し、かつ、一の資産につき20万円以上の固定資産に係る控除対象外消費税額等があるとき

3.まとめ

消費税差異の発生要因は様々ありますが、主なものは以下の通りです。
(1)端数処理による差異
(2)課税売上割合による差異
(3)簡易課税を選択したことによる差異
(4)会計システムと消費税申告計算の不整合による差異
(5)中間申告・中間納付の処理による差異
(6)仮払消費税・仮受消費税を単独仕訳として起票した場合の差異
(7)その他の差異

また、控除対象外消費税額等の処理については、課税売上割合によって異なりますが、表にまとめると以下の通りとなります。

課税売上割合 何に係るものか 法人税法上の扱い 備考
80%以上 全て 損金算入 ※交際費等の損金不算入額に留意
80%未満 下記以外 損金算入 ※交際費等の損金不算入額に留意
一の資産が20万円以上の固定資産・繰延資産 繰延消費税額等として資産計上

 

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