はじめまして。シニアスタッフの山内と申します。
メンバーコラムへは初投稿となります。初回コラムのテーマとして、個人事業主と法人の違いについて書いていきたいと思います。
なお、会社設立にかかる資本金については以前の記事をご参照ください。
会社設立~資本金と会社類型~ 資本金はいくらにすべきか
近年、政府による「働き方改革」の推進によって、会社員が副業として事業を行い収入を得ることも珍しいことではなくなってきました。また、会社に属して給与収入を得るのではなく、独立してお金を稼ぐ働き方も社会に浸透してきています。
そのような状況の中で、開業時に個人事業主か法人かどちらにするのか悩む方はとても多いようです。
ざっくりとした違いとしては、個人事業での開業は手続きがとても簡単である一方、一定以上の所得になると税率が高い、法人設立は、手続きが煩雑かつ時間がかかり、税務申告等も専門的な知識を要するが税金面や信用面でメリットが大きいといったものになります。
次項でその違いについて詳しく見ていきたいと思います。
1.個人事業開業と法人設立の手続き
個人事業主として開業するために必須となる手続きは、税務署へ「個人事業主の開業届」を提出するだけです。(通常は「青色申告の承認申請書」も併せて提出)
※従業員を雇う場合や事業規模が大きい場合は別途手続きが必要です
諸費用も税務署へ送付する郵送代程度で比較的簡単に手続きを済ませることができます。
一方、法人を設立するための手続きは、その法人の形態によって様々な方法がありますが、いずれの形態でも煩雑な手続きをいくつもクリアしなければなりません。
下表が、開業時に必要となる手続きです。
提出先 | 手続/届出 | 提出要否 |
法務局 | 法人登記簿の登録 ※定款作成・公証人による定款認証 |
必須 |
税務署 | 法人設立届出 | |
給与支払事務所等の開始届出 | 基本的に必要 | |
青色申告の承認申請 | 必要に応じて | |
源泉所得税の「納期の特例の承認」に関する申請 | ||
減価償却資産の償却方法の届出 | ||
棚卸資産の評価方法の届出 | ||
消費税関係の届出 | ||
自治体 | 法人設立届出 | 必須 |
年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 基本的に必要 |
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 必要に応じて | |
健康保険被扶養者(異動届) | ||
労働基準監督署 | 労働保険成立届 | |
労働保険概算保険料申告書 | ||
職業安定書 | 雇用保険適用事業所設置届 | |
雇用保険被保険者資格取得届 |
法人設立の場合、提出期限もタイトなものが多く個人事業主と比べると手続き面での負担が大きいことが分かるかと思います。
2.個人事業開業と法人設立の税金
個人事業主も法人も納めるべき税金は何種類かあります。個人事業主の税金については、主要なもので下記の4種類があります。
・所得税
・住民税
・消費税(売上要件あり)
・個人事業税(業種によってかからない場合がある)
法人に関しては、
・法人税
・地方法人税
・法人住民税
・法人事業税
・地方法人特別税
・消費税(売上要件あり)
が主なものとなります。
税額の計算方法も大きく違いますが税率についても大きな違いがあります。
■個人事業主の税率
所得税は、個人事業主が1年間(1/1~12/31)に稼いだ所得(収入-経費)に対して課される税金です。課税の対象となる所得は、事業所得の他、不動産所得や譲渡所得、雑所得など10種類に及び、所得によって税率は異なりますが、個人事業主を念頭に置くと事業所得が前提となりますが、最高税率は住民税と合算しておおよそ55%にもなります。
《参考:所得税額の算出方法》
所得税は課税所得額から課税控除を差し引いたものに税率を乗じて算出されます
課税所得額=収入-経費-各種所得控除
所得税額=課税所得額×税率-課税控除額(下表)-税額控除等
※課税控除額は課税所得額によって税率と共に決められます
所得税・住民税概算の合算速算表(復興特別所得税含む)
課税総所得金額 | 所得税・住民税率 合算税率 |
控除額 | |
超 | 以下 | ||
– | 1,950,000円 | 15.105% | 0円 |
1,950,000円 | 3,300,000円 | 20.210% | 99,548円 |
3,300,000円 | 6,950,000円 | 30.420% | 436,478円 |
6,950,000円 | 9,000,000円 | 33.483% | 649,356円 |
9,000,000円 | 18,000,000円 | 43.693% | 1,568,256円 |
18,000,000円 | 40,000,000円 | 50.840% | 2,854,716円 |
40,000,000円 | – | 55.845% | 4,896,716円 |
個人事業主の所得税率は最小が5%、最大が45%となっています(2019年時点)
また、個人事業主の住民税は納付自治体によって税率も変わってきますが、おおよそ課税所得の10%です。
所得税と住民税を合算した税率が上記の表になっており、前述した通り約55%が最高税率となっています。
個人事業税については、業種によってかからないものもありますが、概ね3%~5%となっています。
■法人の税率
法人の所得に課される法人税は、下表の通り15%~23.2%(資本金1億円以下の法人)となっています。※ここでは、普通法人(商法上の株式会社、合名会社、合資会社、特例有限会社、医療法人、相互会社、企業組合と、一般社団法人及び一般財団法人(共に非営利型法人に該当するものを除く。)等)のみ掲載
区分 | 適用関係 (開始事業年度) |
|||
2019.4.1以降 | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など | 所得が年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者※ | 19% | |||
所得が年800万円超の部分 | 23.20% | |||
上記以外の普通法人 | 23.20% |
※過去3年間平均の所得金額が15億円超の法人を法人税法では、「適用除外事業者」とよびます。
また地方法人税については、2019年10月1日以降開始事業年度の税率が法人税額の10.3%となっています。その他、法人住民税や法人事業税、地方法人特別税(2019年10月1日以降開始事業年度は廃止)を含めると実効税率※としては中小法人ではおおよそ36%ほどの税率になります。
※実効税率とは、法人の所得金額に対して、法人税、地方法人税、法人住民税、
法人事業税が課税されますが、これらの合計額がその法人の所得金額に対する割合、つまり実質的な税負担率を実効税率といいます
このように、単純に税率を比較すると、個人事業主の方が最高税率が高いため一定の所得ラインからは法人の方が税金的メリットがあることが分かります。
3.個人事業開業と法人設立の信用面
個人事業主と法人の社会的信用面については、例えば請求書をもらうときに法人の方が安心感があったり、名刺交換の際に法人であった方が信頼感を得られるといった感覚的なことから、そもそも法人相手でないと取引が行われないといった実務的な部分にまで及んでしまいます。
また、法人の規模や業績にもよりますが銀行からの融資を得る際や取引の開拓などは個人事業主より有利と言えます。
以上の様に、法人の方が社会的な信用は得られやすいといったことは否めません。ただ、個人事業主でも屋号が前面に出ないような業種であれば、法人であることの重要度は低く、個人事業主の方がメリットがあるかもしれません。
4.まとめ
個人事業主のメリットは、開業するのにコストがほぼかからず即日で開業できることです。対して、法人のメリットは、(設立までのハードルは高いですが)個人事業主より社会的信用度も高くなり、規模が大きくなってくると税金面でも有利となります。
次回記事では「法人成りについて」というテーマで書いていきたいと思います。
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