~消費税:建設仮勘定の計上時に全額仕入税額控除していませんか?~固定資産に関する税務処理③

建設仮勘定の計上時に全額仕入税額控除の対象とする処理を行っていませんか?

建設仮勘定の計上時には、
一部の経費(設計料・資材購入費)については仕入税額控除を受けることはできますが、手付金・前払金については仕入税額控除を受けることはできません。

つまり、建設仮勘定でも課税仕入れに該当することはあるものの、
建設仮勘定の全てが控除対象ではない点に留意する必要があります。

今回は誤解の多い建設仮勘定の消費税の処理について書きたいと思います。

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公認会計士・税理士の国近です。
今回のテーマも前回に引き続き固定資産に関する税務処理についてです。

会計上、工事代金の前払金又は部分的に引渡しを受けた工事代金や経費(設計料、資材購入費等)の額を一旦建設仮勘定として計上し、完成後に建物・器具備品等に振り替えることがあります。

上記のような建設仮勘定については、消費税の計算上、仕入税額控除の控除の時期はいつになるのでしょうか。
※仕入税額控除についての詳細は本稿では割愛しますが、簡単に書くと仕入税額控除を受けることが可能であれば消費税額が軽減・消費税が還付されることとなります

1.建設仮勘定の仕入税額控除の時期

結論から記載しますと、建設仮勘定の仕入税額控除の時期は以下の通りとなります。
※以下、一般論となり、個別の工事については実態判断を伴うため、個別具体的な事例につきましては、専門家にご相談ください。

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【原則的取り扱い】
①建設仮勘定に計上された支出のうち、工事代金の前払金又は部分的に引渡しを受けた工事代金

→目的物の完成引渡しがあった日の属する課税期間の課税仕入として仕入税額控除

②建設仮勘定に計上された支出のうち、経費(例えば、設計料、資材購入費等)に対応する代金
課税仕入れ等をした日の属する課税期間の課税仕入として仕入税額控除

【例外的取り扱い】

上記②に属する支出であっても、当該目的物の完成した日の属する課税期間における課税仕入れ等としているときは、当該目的物の完成した日の属する課税期間の課税仕入として仕入税額控除する方法も認められる
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消費税基本通達11-3-6には「建設仮勘定として経理した場合においても、当該課税仕入れ等については、その課税仕入れ等をした日の属する課税期間において法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用される」との文言があり、建設仮勘定に計上されている金額であっても、原則として物の引渡しや役務の提供があった日の課税期間において課税仕入れに対する税額の控除を行うことが明記されています。

ただし、この通達の記載が誤解の基になっているものと思われますが、「建設仮勘定として経理した場合においても、当該課税仕入れ等については、その課税仕入れ等をした日の属する課税期間において法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用される」の趣旨は、建設仮勘定に計上時には何でも計上額を全額控除対象できるという趣旨ではなく、一部経費(例えば、設計料・資材購入費)について課税仕入れ等をした日に仕入税額控除を受けられるという趣旨であることに留意が必要です。

参考:国税庁タックスアンサー No.6483 建設仮勘定の仕入税額控除の時期)

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建設仮勘定の仕入税額控除の時期[平成31年4月1日現在法令等]

(前略)
減価償却資産や棚卸資産であっても、これらの課税資産等を取得した日の属する課税期間において、その全額を控除の対象にすることになります。
ところで、建設工事の場合は、通常、工事の発注から完成引渡しまでの期間が長期に及ぶため、一般的に、工事代金の前払金又は部分的に引渡しを受けた工事代金や経費(設計料、資材購入費等)の額を一旦建設仮勘定として経理し、これを目的物の全部が引き渡されたときに、固定資産などに振り替える処理を行っています。
しかし、消費税法においては、建設仮勘定に計上されている金額であっても、原則として物の引渡しや役務の提供があった日の課税期間において課税仕入れに対する税額の控除を行うことになりますから、当該設計料に係る役務の提供や資材の購入等の課税仕入れについては、その課税仕入れを行った日の属する課税期間において仕入税額控除を行うことになります。
ただし、建設仮勘定として経理した課税仕入れについて、物の引渡しや役務の提供又は一部が完成したことにより引渡しを受けた部分をその都度課税仕入れとしないで、工事の目的物のすべての引渡しを受けた日の属する課税期間における課税仕入れとして処理する方法も認められます。
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建設仮勘定のうち、設計料・資材購入費等につき仕入税額控除の継続管理を行うことは煩雑となるため、建設仮勘定に計上した費用は、完成引渡しの時期にまとめて仕入税額控除の対象とすることが認められているに過ぎないということです(消費税基本通達11-3-6)。

消費税基本通達11-3-6は、以下の通りとなります(以下、抜粋)

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(建設仮勘定)
11-3-6 事業者が、建設工事等に係る目的物の完成前に行った当該建設工事等のための課税仕入れ等の金額について建設仮勘定として経理した場合においても、当該課税仕入れ等については、その課税仕入れ等をした日の属する課税期間において法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用されるのであるが、当該建設仮勘定として経理した課税仕入れ等につき、当該目的物の完成した日の属する課税期間における課税仕入れ等としているときは、これを認める
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2.いわゆる部分検収は検収時に仕入税額控除できる?

結論としては、いわゆる部分検収をしても、部分検収時には仕入税額控除できないケースが多いのでは無いでしょうか。

例えば、①建物Aと②建物Bの2つの建物を建設し、①建物Aと②建物Bのそれぞれについて引渡しを要する請負契約があるとします。
①建物Aの工事は仕掛中で検収が完了しなかったものの、②建物Bについては検収・引渡しが完了して②建物Bについてのみ使用収益できる…という状況であれば、②建物Bの検収時に仕入税額控除が取れる余地はあると考えられます。

一方で、①建物Aを建設し、建物Aの引渡しを要する請負契約があるとします。
ここで、請負契約の内容が建設工事等の引渡しを要するものであるときの課税仕入れを行った日は、当該建設工事等の目的物の引渡しを受けた日と考えられます(平11-09-16裁決を参考)。
従って、いわゆる部分検収をして、工事代金の30%を支払った場合であっても、目的物である建物Aを引渡していないのであれば、部分検収による工事代金の30%部分についてはあくまで中間金であり、部分検収時には仕入税額控除できないものと考えられます。
※ただ、1つの請負契約で、目的物の引き渡しが明確に区分されていれば仕入税額控除できるケースもあると思います。経済的実態に応じて個別に判断することになります

3.まとめ

今回は建設仮勘定の仕入税額控除の処理について記載致しました。
建設仮勘定は、内容が多岐にわたること・取得価額が大きくなることがあり、誤った処理を行った場合の影響額も大きいものとなります。

また、通達や国税庁タックスアンサーでは、一部経費(設計料、資材購入費等)が例として挙げられていますが、実務上は判断を伴う事項もあるかと思われます。

建設仮勘定に関しましては、誤解が多く、また、金額も多額となることが見込まれるため、税務調査等で否認された場合には大きな影響を受ける場合もあります。必要に応じて適宜専門家と相談の上、対応していく必要があるものと考えられます。
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