M&A関連~役員退職金①役員退職金の損金算入限度額①功績倍率法~

こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。

今回のテーマはM&Aに関連して、役員退職金についてです。
M&Aにおいては、オーナー株主である代表取締役が退任することはよくみられます。
その際、役員退職金をいくらまで出していいのか、すなわち法人税法上の役員退職金限度額が問題になることがあります。

今回は役員退職金限度額について書きたいと思います。

1.役員退職金の損金算入限度額

役員に対する報酬は原則として、定期同額給与等に該当するもののみが損金として認められます。
一方、退職金の支給については、役員が業務に従事した期間、その退職の事情、対象会社と同種の事業を営み事業規模が類似する法人の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、不相当に高額でない限り、損金算入が認められています。

※法人税法34条2項抜粋

第三十四条 2 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

※法人税法施行令70条抜粋

第七十条 法第三十四条第二項(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。
(中略)
二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与(法第三十四条第一項又は第三項の規定の適用があるものを除く。以下この号において同じ。)の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額

実務上は、法人税法施行令70条2項の考え方を受けて、いわゆる功績倍率法(役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法)に基づいて適正額(損金算入限度額)を計算していることが多いかと思われます 。

この功績倍率法による適正額(損金算入限度額)の算定方法は一般に「平均功績倍率法」、「1年当たり平均額法」、「最高功績倍率法」があります。ただし、これらの算定方法は主として課税庁や裁判所等が判断する際に用いられる方法であり、実務上は適正額を支給時点において算出することは非常に難しいのではないでしょうか。

そのため実務上は、以下のような計算式によって計算された金額により損金算入限度額を算出することが多いと思います。

①最終報酬月額*②勤続年数*③役位別係数

(1)最終報酬月額

一般的には役員の退任時の報酬月が利用されます。
ただし、役位別の各最終報酬月額等により計算されることもあります。

また、平成5年高松地裁の判決によると、例えば、業績悪化等により職務内容に応じた報酬を受け取っていなかったり、代表取締役だった者が退任時には非常勤取締役となっていたりすることなど、特段の事情により低額の報酬しか支給していない場合は、適正額に置き換えて計算する必要がある、とされています。

(2)勤続年数

勤続年数は、退職した役員の役員である期間で計算します。法人成りした法人の個人事業時代の在職期間は勤続年数に含まれません(平成5年高松地裁判決)

(3)役位別係数

一般的には、役位別の貢献度から倍率を設定します。
実務上は1.5倍~3.0倍程度で用いられているケースが多いものと思われます。

2.まとめ

役員退職金については、以下の算式で計算されることが一般的ですが、様々な論点があり、実務上判断に迷うケースが少なくありません。

①最終報酬月額*②勤続年数*③役位別係数

次回以降は、分掌変更がなされた場合、分割支給・・・などの論点についても書いていきたいと思います。

弊社はM&Aに関する諸論点に関するご相談にも乗っていますので、お気軽にお問い合わせよりご相談ください。

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M&A関連~合併と株式譲渡の違い~どちらが有利?

こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。

今回のテーマはM&Aに関連して、「合併と株式譲渡の違い」です。
グループ内組織再編ではなく、第三者とのM&Aを想定して、以下記載します

※M&Aに関する過去記事も適宜ご参照ください
消費税②~会社分割・事業譲渡・合併等の組織再編行為に係る消費税~
M&A関連~M&A関連費用の会計処理と税務上の取り扱い~
M&A関連~組織再編行為に係る課税関係まとめ:株式譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡~

1.合併と株式譲渡どちらがよく使われるか

(私見ですが、中小企業M&Aにおいては、)株式譲渡が一般的に使われる手法です。
詳細は後述しますが、主な理由としては、①税務上有利なことが多い、②合併法人(買い手)自身が被合併法人(売り手)のリスクを直接的に負わない、こと等が挙げられます。

2.合併の税務・法的関係・のれんの取扱い他

合併とは、2以上の会社が契約により1つの会社になることをいいます。
合併は権利義務の包括承継であり組織法上の行為とされます。
合併については、新設合併・吸収合併・適格合併・非適格合併など様々な種類の合併があります。
一般的に利用されるのは吸収合併ですし、株式譲渡との比較という意味でも吸収合併が適切かと思いますので、以後、吸収合併について書きます。

(1)合併に係る法人税・所得税

前述した通り、合併は権利義務の包括承継であり組織法上の行為とされます。
そのため、株式譲渡のような単純な資産の譲渡とは性質が異なり、課税関係についても別途規定されており、複雑な取り扱いとなっています。

適格合併と非適格合併で課税関係が異なり、適格合併では課税の繰り延べが認められている一方、非適格合併では時価で引き継ぐことが要求される他、被合併法人の株主についてもみなし配当課税がなされる可能性があります。

非適格合併となり、時価課税されても、必ずしも多額の課税が発生するとは限りません。しかしながら、被合併法人が含み益のある資産を持っている場合など多額の課税が発生する可能性があるため、留意が必要です。
※適格合併と非適格合併については、説明が長くなるため別途コラムで書きます

詳細は以下の通りとなります。
※グループ内組織再編はともかく、第三者との中小企業M&Aにおいては、非適格合併に該当することがほとんどかと思いますので、株式譲渡との比較の意味では、下表の非適格合併をご参照ください

当事者 適格合併 非適格合併
合併法人 ・課税関係なし
※資産負債は帳簿価額で引継ぐ
(合併時は課税関係なし)
・法人税:資産調整勘定が発生
※時価で引継ぐ
被合併法人 ・課税関係なし
※資産負債は帳簿価額で移転する
・法人税:譲渡益課税あり
※時価で移転
被合併法人の株主 ・課税関係なし ・所得税:みなし配当課税
・所得税:譲渡益課税

(2)合併に係る消費税

消費税については、権利義務の包括承継であり、不課税とされています。

(3)合併に係るデューデリジェンス費用

M&Aが合併により行われるときに、支出されるデューデリジェンス費用については、国税庁の質疑応答事例において一時の損金として処理することとなると示されており、M&Aの態様により、同じデューデリジェンス費用でも税務上の取り扱いが異なってくることにも留意が必要です
※なお、取得関連費用についての詳細は以下ご参照ください。
M&A関連~M&A関連費用の会計処理と税務上の取り扱い~

(4)合併に係る被合併法人の法的関係・リスク

合併は権利義務の包括承継であり組織法上の行為とされます。
そのため、被合併法人の法的関係・リスク(例えば、訴訟リスクなど)については、合併法人に包括的に承継されます。

従って、吸収合併をすると、被合併法人のリスクを合併法人が直接的に負うことになるといえます。

(5)合併に係るのれんの取扱い

非適格合併の場合、合併法人の個別財務諸表において、時価と帳簿価額の差額についてのれん・負ののれんが計上されます。

(6)合併に係る金銭的・時間的コスト

合併は権利義務の包括承継であり組織法上の行為とされます。
そのため、登記・公告の金銭的・時間的コスト(概ね2ヶ月程度でしょうか)が発生します。

3.株式譲渡の税務・法的関係・のれんの取扱い他

株式譲渡は、会社組織に変更をもたらさない取引法上の行為です。
従って、合併と異なり株式譲渡は組織再編行為ではなく、単純な株式の売買取引と捉えて問題ありません。

(1)株式譲渡に係る法人税・所得税

株式譲渡は単純な売買取引ですので、課税関係も通常の資産の売買取引と同様に考えれば良いことになります。

そのため、課税関係は以下の通り、売り手に対して株式譲渡益課税がなされるのみとなります。

当事者 税務上の取り扱い
買い手 課税関係なし
売り手 株式譲渡益課税
個人:20.315%
法人:実効税率(中小法人約36%)

(2)株式譲渡に係る消費税

株式譲渡は消費税は非課税となり課されません。ただし、非課税売上の5%を課税売上割合の分母に算入しなければならないため、課税売上割合が下がる点、留意が必要です。

(3)株式譲渡に係るデューデリジェンス費用

法人税法施行令では「購入手数料その他購入のために要した費用」については取得価額に含まれることとされており、損金計上はできません。
デューデリジェンスを含めた取得関連費用については、以下の通り整理されています。
特定の有価証券を取得することを決定した時点以前の調査費用:損金処理
特定の有価証券を取得することを決定した時点以降の調査費用:取得価額
※なお、取得関連費用についての詳細は以下ご参照ください。
M&A関連~M&A関連費用の会計処理と税務上の取り扱い~

(4)株式譲渡に係る被合併法人の法的関係・リスク

株式譲渡は単純な売買取引ですので、法的関係・リスクも通常の資産の売買取引と同様に考えれば良いことになります。
そのため、株式譲渡後においても、法的関係・リスクは株式譲渡対象会社が追うことになります。
※ただし、子会社のリスクを間接的に負うことはあります

(5)株式譲渡に係るのれんの取扱い

株式譲渡の場合、取得法人の個別財務諸表については株式が計上されるのみとなり、のれんは計上されません。
連結財務諸表において、時価と帳簿価額の差額についてのれん・負ののれんが計上されることになります。

(6)株式譲渡に係る金銭的・時間的コスト

株式譲渡は単純な売買取引です。
登記・公告は不要であり、金銭的・時間的コストは通常発生しません(もちろん、譲渡益課税はなされます)。

4.合併と株式譲渡の違い~まとめ~

非適格吸収合併と株式譲渡を比較すると以下の通りとなります。

項目 当事者 非適格合併 株式譲渡
法人税・所得税 合併法人(買い手) (合併時は課税関係なし)
・法人税:資産調整勘定が発生
※時価で引継ぐ
課税関係なし
被合併法人(売り手) ・法人税:譲渡益課税あり
※時価で移転
課税関係なし
被合併法人の株主 ・所得税:みなし配当課税
・所得税:譲渡益課税
株式譲渡益課税
個人:20.315%
法人:実効税率(中小法人約36%)
消費税 不課税 非課税
DD費用 合併法人(買い手) 損金算入 取得価額に含める
※ただし、一定の場合損金算入
法的関係・リスク 合併法人が引継ぐ 譲渡前も譲渡後も株式譲渡対象会社に帰属
のれん 個別財務諸表・連結財務諸表いずれでも計上 連結財務諸表で計上
コスト 金銭的・時間的に高い

合併と株式譲渡どちらが有利か、という質問に対しては、上表の通り様々な要因があるため、ケースバイケースとなります。

しかしながら、株式譲渡は合併と比較して、事務的に簡便であり、通常は登記費用等も発生しませんので、一般的によく利用される手法といえます。

いずれにしろ組織再編行為は取引金額が多額となるケースが多く、スキームや課税関係を慎重に検討して適切な処理を行うことが極めて重要となります。

上表はすべての要因を網羅した表とはなっていませんが、合併と株式譲渡どちらを採用すべきか検討している場合、ご参考にして頂き、必要に応じて、専門家にお問い合わせください。

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※本コラムは、掲載日時点の情報に基づく個人的な見解であり、G&Sソリューションズグループの公式見解ではないことをお断り申し上げます。
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M&A関連~組織再編行為に係る課税関係まとめ:株式譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡~

こんにちは、公認会計士・税理士の国近です。

今回のテーマはM&Aに関連して、組織再編行為に係る課税関係についてです。
以前、消費税に関連して、会社分割・事業譲渡・合併等の組織再編行為に係る消費税の取り扱いに書きましたが、今回は法人税の取り扱いについても触れたいと思います。
消費税②~会社分割・事業譲渡・合併等の組織再編行為に係る消費税~

株式譲渡・事業譲渡は組織再編行為ではありませんが、M&Aでは一般的な取引形態ですので、株式譲渡を含めて各組織再編行為における法人税・消費税などの課税関係について記載したいと思います。

1.株式譲渡に係る課税関係

株式譲渡は、会社組織に変更をもたらさない取引法上の行為です。
というとお堅い言い方となりますが、株式譲渡は組織再編行為ではなく、単純な株式の売買取引と捉えて問題ありません。

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